ロシア語の「YOU」は二通りある:二人称代名詞の使い分け

Alena Repkina
 ロシア人は、社会的地位、年齢、関係、つまり親しさの度合いなどに応じて、相手への呼びかけ方を変える。では、正しい「あなた」を選ぶ方法は?…どうかご心配なく、我々がご説明しよう!

 「何で私に向かって『YOU』を使うんですか?」

 「ねえ、私たちはもうお互いに『YOU』を使わない?」

 こういう表現は、ロシア語を知らない人には意味をなさないだろう。

 「君が私に『YOU』を使うとはね?!」

 「あたしに『YOU』なんて言わないでよ」 

 誰かが、たとえば英語で、怒ってこんなことを言う様も想像できないだろう。

 しかし、ロシア語ではごくありふれたことだ。ロシア語にはこんな難しさもあったのか、と当惑しましたか?

 今、我々が、その辺のニュアンスが翻訳で失われないように、すべてをご説明しよう。

 

相手が一人の場合は「Ты」(トゥイ)、複数の場合は「Вы」(ヴイ)

 ロシア語には、二人称代名詞の使い方について、いくつもの規則がある。まず、「Ты」(トゥイ)は、一人に話しかける場合に使う。

 もちろん、我々は「Ы」が複雑な文字だということを承知している。だから、もしあなたがこの文字で苦労しているなら、詳しい説明と発音方法をまず読んでほしい

 「Ты」はこんな風に使う。

 Ты пойдешь со мной обедать? [Ty poidesh so mnoi obedat’?] - 「私といっしょに食事に行く?」

 Ты будешь кофе? [Ty budesh kofye?] - 「君、コーヒーを飲むかい?」

 しかし、2人以上に話しかけるときは、別の代名詞「Вы」(ヴイ)を使う。つまり、単数形から複数形に切り替えるわけだ。

 Ребята, вы пойдете гулять? [Rebyata, vy poidetye gulyat?] - 「君たち、散歩に行く?」

 Эй, вы там, слышите меня? [Eiy, vy tam, slyshitye menya?] - 「あんたたち、そこで私の声が聞こえる?」

 実際のところ、これだけなら、マスターするのはそんなに難しくないだろう。しかし、「Вы」(ヴイ)については、もう一つ、まぎらわしい点がある。つまり、「Вы」(ヴイ)を、今述べたように複数の相手に使うときと、一人に対し敬意を表して使うとき、つまり敬語として使う場合があるのだ…。たしかに、まぎらわしい!でも、もうちょっと我慢してほしい!

 

相手によって「Ты」(トゥイ)と「Вы」(ヴイ)を使い分ける

 というわけで、繰り返すと、「Вы」(ヴイ)には2つの異なる意味がある。一つは、複数の人々、グループ、集団に対して使われる(混同しないように、便宜的に小文字で表記しよう -вы)。

 もう一つは、一人に対し「敬意を表して」、敬語として使う(最初の文字を便宜的に大文字で表記する -Вы)。

 では、どういう相手に「Ты」(トゥイ)と「Вы」(ヴイ)を使うのか?使い分けが難しいなあ、とあなたは思うかもしれないが、そんなことはない。

  ふつう、見知らぬ人に対しては(とくに、それが知らない大人だったり、目上の人だったりする場合は)、常に「Вы」(ヴイ)を使う。

 Извините, пожалуйста, Вы не знаете, как пройти к метро? [Izvinite pozhaluista, vy ne znayete kak proiti k metro] - 「失礼ですが、地下鉄へはどう行けばいいかご存じですか?」

 Вы не подскажете, который час? [Vy ne podskazhete, kotory chas?] - 「今何時か教えていただけませんか?」

 

なぜロシア人は「YOU」を使い分けるのか

 その理由は、ロシア語には、「敬意を表して」「改まって」「公式に」呼びかける形がないことだ。たとえば、英語の ‘Mister’ (Mr.) や ‘Missus’ (Mrs./Ms.) のようなものはない。そして、これには歴史的背景がある。

 ピョートル大帝(1世)の治世の前は、ロシアでは誰もが、ツァーリに対してさえ、お互いに「Ты」で呼び合った。しかしピョートルは、すべての官吏と貴族をランク付けし、ランクが上の人に対しては「Вы」を使うように命じた。

 そしてその際に、皇帝に対する「陛下Ваше величество」 (“Your Majesty”)をはじめとし、位階に応じたさまざまな尊称を加えるようにした。たとえば、

「Ваше благородье」(“Your Well Born” 9~14等文官、およびこれに相当する武官に用いる)

「Ваше Превосходительство」 (“Your Excellency” 3~4等文官、および陸軍中将、少将に用いる)「Ваше Сиятельство」 (“Your Illustrious Highness” 公爵、伯爵などに用いる)

 「Вы」はすぐに、ロシア語の一部となり、貴族階級では、子供たちは両親に「Вы」で話し、夫婦同士でさえ、お互いに「Вы」を使った。

 一方、農民は、貴族に対しては「Вы」を用いたが、農民同士ではまだ「Ты」で話した。そして地主貴族は、自分の農奴に「Ты」を使った。
 もし、貴族が自分の召使(たいていは農奴出身)に対し「Вы」を使ったら、その召使はがっかりしたり、心配したりすることさえあった。なぜならそれは、主人が自分への信頼をなくしたか、何かに腹を立てたからかもしれないので。

 1917年のボリシェヴィキ革命後、すべての階級が廃止され、人々はお互いにただ「товарищ タヴァーリシ(同志)と呼ぶようになった。しかし、それでも「Вы」は、見知らぬ人との会話で依然として使われ、職場や学校などでも用いられた。

 

Вы じゃなくてТыで話そうか?」

 ソ連時代以降、同じ年齢や地位の人に対しては、「Ты」に「切り替える」のがより容易になった。ただ、「Ты」を使ってもいいかどうか、相手に聞けばいいのだ。

“Может, перейдем на ты?” [Mozhet, pereidem na ty?] - 「お互いに『Ты』で話そうか?」

“Мы же можем на ты?” [My zhe mozhem na ty?] - 「私たちは『Ты』で話してもかまわないよね?」

 また、近年では家族同士も「Ты」を使う傾向がある。その一方で、たとえば、大学の教員は、たとえ年齢差が大きくても、ふつうは学生に対して「Вы」を使う。これはリスペクトの表現で、必要なマナーだとされている。

 逆に、見知らぬ人から「Ты」で話しかけられた場合、失礼な!と思い、怒るかもしれない。 この記事は、ちょうどそういうケースで始めたのだった。

 Кто позволил вам мне тыкать? [Kto pozvolil vam mne tykat’]  - 「誰があなたに、私に向かって『Ты』を使うことを許したんですか?」→「なんで私に向かって『Ты』を使うんですか?」

 これは、つまり、その人は『Ты』に「切り替える」のに反対で、一定の敬意と距離を保ちたいということだ。

 ところで、動詞「тыкать」[“tykat”] は、文字通り、「『Ты』で話しかける」という意味で、口語だ。ふつうは、何かいざこざとか行き違いが起きたようなケースで使われる。

 Вы мне не тыкайте! [Vy mne ne tykaite] - 「何で私を『Ты』呼ばわりするんですか!」

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