公式の、いわゆる改まった場合には、「父称」を付けた「フルネーム」を用いる必要がある。たとえば、エレーナの父親の名前がドミトリーである場合は、彼女の部下など目下の人は、彼女に話しかけるときに、「エレーナ・ドミトリエヴナ」という形を使わなければならない。
ニコライの父親の名がウラジーミルである場合、公式の状況で使われるフルネームは、「ニコライ・ウラジーミロヴィチ」になる。大学など学界でも、同様のフルネーム使用のルールが適用される。
たとえば、ロシアにやって来た留学生は、こういう「早口言葉」を覚えなければならないことを知って、数週間、地獄に陥るわけだ(でも、少なくとも祖父の名前は覚えなくてもいい)。
フルネームを使用することは、敬意と、2人の話者の間にある社会的または個人的な距離を示す。
ほとんどの場合、父称がつくられる方法は次の通りだ。父親の名が硬子音で終わる場合は、接尾辞「-ович-/-овна-」を加える。軟子音で終わる場合、あるいは、「ж, ш, ч, щ, ц」の文字で終わる場合は(たいていは外国由来の名だ)、「-евич-/-евна-」を加える。
表 1. 父称のつくり方
次に、大学、オフィス、正式な文書などはちょっと脇に置いて、非公式のくだけたコミュニケーションに焦点を当てよう。ここでは二人称代名詞「ты」が使われ、名前も短いバージョンが用いられる。
ここでは父称は使われない。名前は、正式の「長いバージョン」と同じこともあれば、違うこともある。例えば、エレーナはレーナになり、ニコライはコーリャとなる。
名前の「変容」の3番目の段階では、接尾辞「指小形(愛称形)」が追加される。
ニコライの場合は、彼の母親は、夕食に呼ぶときに「コーレンカ」と呼ぶかもしれない。レーナの夫は、妻に対して親愛の情を込めて「レーノチカ」と言うかも。
これらの「指小形」は、常に相手との特別な関係を示している。また、この形はしばしば子供たちに対して用いられる。
1.(女性が電話で話しているときに、その秘書が彼女に尋ねる)
- Елена Дмитриевна, Вы заняты?
(エレーナ・ドミトリエヴナ、今お忙しいですか?)
- Да, зайдите позже.
(そうね、後で来て)
2.(同じ女性がカフェで女友達と話している)
- Лена, ты отлично выглядишь!
(レーナ、今日はすてきね!)
- Спасибо!
(ありがとう!)
3.(同じ女性が家にいる。夫がテレビを見ながら彼女に聞く)
- Леночка, ты уже поела?
(レーノチカ、もう食事はしたかい?)
- Да, дорогой.
(ええ、あなた)
1.(背広ネクタイ姿の男性が同僚と話している)
– Николай Владимирович, как прошла встреча?
(ニコライ・ウラジーミロヴィチ、会合はいかがでしたか?)
- Просто замечательно, спасибо.
(最高だったよ、ありがとう)
2.(同じ男性が、上とは対照的に、クラブで若者のおどけた服を着て踊っている。近くにいた友人が感想をもらす)
– Коля, мы не знали, что ты танцор!
(コーリャ、君がダンサーだとは知らなかったよ)
3.(同じ男性を母親が玄関で見送る)
– Коленька, надень шапку!
(コーレンカ、帽子をかぶりなさい!)
- Мама, мне 35 лет, мне не холодно.
(ママ、僕はもう35歳だよ。寒くないよ)
このように、名前の形は状況に応じて変わる。重要なことは、短いバージョン(指小形)は、単にフルネームの一つのバージョンにすぎないことを覚えておくことだ。以下の表で、ロシアで最も一般的な名前とその短いバージョンを参照してほしい。
表 2. フルネームとそのバリエーション
もう一つ考慮すべきことは、男性の名前の短いバージョンはたいてい-А/-Яで終わる点だ。これはふつう、文法上の規則によれば「女性名詞」の語尾だが、べつに、男性の名前を女性っぽく聞こえるようにすることを意図したものではない。
しかし、会話では混乱を招きかねない。たとえば、パーティーで「サーシャがもうすぐ来る」と聞いたときは、早まってその人の性別を決めつけないようにしよう(サーシャは、女性名アレクサンドラ、または男性名アレクサンドルの愛称形)。
「サーシャがもうすぐ来る」
Alena Repkinaロシア・ビヨンドのニュースレター
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