国のデータを見ると、ロシアの移民問題は西側のそれとは正反対のようだ。というのも、ロシアへの移民は以前より減少している。移民の流入に直面しているヨーロッパ諸国の住民からすれば、これはそれほど悪いことではないように思えるかもしれない。しかしここで、ロシアが抱える人口問題の独特な事情が浮かび上がる。
2018年、ロシアでは10年ぶりに死亡者数が新生児数を上回った。人口減少の流れは長期的なものになると言われている。出生率を高めようという努力の他にロシアが人口減少対策として期待しているのが移民の流入だ。しかし、現状でこれは可能なのだろうか。
国の統計に基づいて大統領府直属国立経済行政アカデミーの研究者らが提示したデータによれば、2018年にロシアに来た移民の数は、9ヶ月分の予想値と比べてほぼ半減した。前年比でも半減している(OECDによれば、2017年には移民の数が19㌫減少している)。モスクワのガイダル・フォーラムでの最近の会合では、専門家らは2018年にロシアに来た移民の総数を12万から12万5千人と見積もっている。
現在の人口減少を相殺するためには、この数値はずっと高くなければならない。連邦統計局の推計では、ロシアは毎年少なくとも50万人の移民を必要としている。現実との差は非常に大きい。移民の数が現在の4倍になることを期待することは現実的と言えるだろうか。果たしてロシアは、あと数世代で消滅する運命にあるのだろうか。
状況はそれほど深刻なのだろうか。本当にこれをロシアの移民危機と呼べるのだろうか。一部の研究者の考えでは、そうではない。彼らによれば、移民問題が破滅的な状況に見えるのは、ロシアの統計の取り方に主要な原因がある。というのも、連邦統計局は移民を長期移民(ロシアに永住する目的で9ヶ月以上の滞在登録を受けている)と一時移民という2つの主要なカテゴリーに分類しているのだ。先述の12万~12万5千人という数字は、前者に関するものだ。実際には後者のほうが圧倒的に多く、900万~1000万人に上る。
彼らの大多数が、ロシア移民局の書類上でのみ「一時移民」として扱われている。モスクワ社会学研究所民族政治学センターのウラジーミル・ムコメリ所長によれば、「彼らの多くはロシアに何年も住んでいる」。永住権を得る手続きは複雑で時間がかかるため、彼らは定期的にロシアから出国しては戻って来ているのだ。「2018年のデータによれば、ロシアに来て、数年間暮らす外国人労働者の数は減っていない」とムコメリ氏は主張する。これが事実ならば、長期移民の数が減少していることはさほど問題にならない。毎年数百万人規模の移民がロシアにやって来ているからだ。役所が彼らを一時移民と呼び、そう登録しているにすぎない。
ムコメリ氏は、彼らの調査によれば、計1000万人の「一時移民」のうち「一年以上ロシアに滞在する人の割合」は4割以上になるという。つまり、永住目的の移民として数えられていない人が約400万人いることになる。別の研究者の話では、「形式上は国際移民と考えられているが、実際には権利の限られた永住者である人が400万人いる」のだそうだ。
同じ報告書に違法移民の推定数も提示されているが、それによれば違法移民の数は一時移民の2割を占めるという。すでにロシアでの一時滞在(一年以上)の許可を得ている人の数は110万人で、彼らは間もなくロシア市民となる。したがって、比較的容易にロシア市民となり、ロシアの人口状況を改善し得る人は、数百万人存在している。
ほとんど一晩でロシアの人口を四、五百万人増加させられるなら、移民の流入は問題ないと考える人がいるかもしれない。しかし、これは移民の受け入れおよび統合のメカニズムの導入と、移民規則の簡素化なしには実現しない。一方で、多くの専門家が認めるように、ロシアの移民に関する法と慣例の根本的な改革は容易ではない。
ロシアは、移民問題に関して未だ明確な展望を描けていないと言われる。多くの国々では、民族的背景の違いに起因する混乱が広がっている。すると移民の流入は脅威なのだろうか。それとも、移民は深刻な人口問題を解決する特効薬なのだろうか。ムコメリ氏によれば、移民に関するロシア政府のプログラム、ウラジーミル・プーチン大統領が昨年10月に署名した移民政策の構想は、「移民の受け入れと統合を目指す政策を暗に拒絶」しており、この問題に対してより保守的な姿勢を取るものとなっている。つまり、ロシア市民になることを望む大勢の人々は、ロシアの人口の潜在的な供給源でしかないということだ。現在のロシアの曖昧な状況を生む原因となっている長期移民とは違い、「一時移民」は完全な権利を持つ市民としてロシア社会に加わるのが難しく、長い目で見れば、社会にとっての圧力となりかねない。
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