ロシアのカドル・パーティはどのように行われているのか?

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 カドル・パーティは私生活の悩みを解決する助けになるのだろうか?見知らぬ人と抱き合うのはまったく好きではないと言う記者がこのテーマを調査した。

 モスクワ近郊にある9階建てのパネル住宅の明るい屋根裏部屋はヨガスタジオのようである。ウッドフローリングの上には体操用のマットと、ブランケットがかかったフロアクッションが置かれている。コーナーには大きなテーブルの置かれたキッチンがあり、テーブルの上にはクッキー、コップ、ジュース、レモンの入った瓶などが並んでいる。壁ぎわにはいくつかの椅子が並び、ソファがある。しかしここに集まってくるのは、インドヨガの愛好家ではなく、お金を払って見知らぬ人々と抱擁したいという人たちである。1時間後、この空間は抱擁する人々で息苦しくなり、涙で湿っぽくなるのである。

最初の出会い

 28歳くらいの背の高い巻き毛のブルネットの男性は、「正直に言えば、朝からすごく悲しい気分だったのですが、今はもっと悲しくなりそうです」と皮肉なしに言う。彼はカドル・パーティに参加するためここにやってきた30人ほどのメンバーの一人である。カドル・パーティはロシアではかなり新しい、大人のための「娯楽」である。青年が初めて来たのではないことは明らかだった。数人の人たちが手を前に伸ばし、手のひらをくるくるさせ始める。これは「わたしたちも同じ気持ち」ということを表すジェスチャーである。

 どうやら参加者全員が集まったようだ。参加者たちは床に丸くなって座り、自己紹介をする。ほとんどの人はカジュアルな服装だが、一人の女の子はぬいぐるみのようなつなぎのパジャマを着ていて、もう一人の女の子は頬にラメを塗っていた。誰もが興味津々に今夜の自分のパートナーになりそうな相手を見ている。

 男性の一人が、これは新興宗教か新しいミレニアル世代の娯楽のようだと冗談を言う。何人かが笑う。ティーンエイジャーのように見える若い女性は、とても緊張していると言っている。ここに来るのは初めてで、知らない人と抱擁できるかどうか分からないと言う。背の高い茶色の髪の男性が、つらそうに壁にもたれかかり、今日は「ゆっくりしたい」と伝えている。

 わたしは参加者を見回し、彼らがどれほど自分を孤独に感じているのか想像してみる。喉がつかえる。隣に座っている女性がわたしを見ている。背の低い、ハート形の顔をしたブルネットの女性である。窓の外では太陽が沈み、ポータブルスピーカーからは癒しの音楽が流れている。

情熱を帯びたメンバー集め 

 アメリカでこのようなパーティが初めて開かれたのは2000年代の始めであった。リーダ・ミハルコとマルシア・ベクシンスカが「新しい癒し」として企画したものである。知らない人と無制限に抱擁できるこのパーティは、数年前にモスクワの内向的な人や「心を失った人たち」のために始まったが、今でも参加者は集まっている。パーティはサンクトペテルブルクやキーロフ、カリーニングラード、ロストフ・ナ・ドヌー、サマーラ、クラスノダール、エカテリンブルク、ノヴォシビルスク、トムスクなどでも行われている。 

 モスクワでカドル・パーティに参加するのはそう簡単ではない。まずインターネットサイトにあるアンケートに記入し、ソーシャルネットワーク上の自分のアカウント、Eメール、電話番号を知らせなければならない。その後、事務局と連絡を取り、質問に答える。質問の中には、知らない人たちの中に入って、何を期待するか、どんな気分がするか、また心理内科医に下された診断があるかどうかなどが含まれている。重要なのは、これらの質問には書面で答えるのではなく、声のメッセージで答えるということだ。こうすれば、その人が嘘をついているかどうかを機械が判別しやすいのである。

 メンバー集めが終わった後、1,000ルーブル(およそ1,600円)の入場券の支払先情報と住所が送られてくる。パーティ開催が近づくと、「小ぎれいで、清潔で、よい香りがするよう心がけてください」と言う注意書きが送られてくる。

 パーティの初めに主なルールが紹介される。性交渉、キス、写真撮影は禁止。誰かを抱きしめたくなったら相手に尋ねること。衣服は脱がないこと、周囲の物や人々を傷つけないこと。

涙と抱擁

 簡単な自己紹介の終わりに全員で瞑想する。優しい小さな妖精を思わせる司会のマリヤが深く息を吐き、「体の中心を意識し、地面に向かって根を伸ばしているかのように」感じましょうと声をかける。地面に根を伸ばそうとしながらなぜか内面の居心地の悪さを感じる。目を開けると、周りの人々は眠っている子どものように、感無量な様子をしている。

 その後、ペアになって練習をする。自分の感情をシェアしたり、最初のボディタッチをしたりするのである。わたしは輪の中から自分でパートナーを選ばなければならなかった。隣にいたハート型の顔の女性に視線が定まった。彼女の方を向き、「疲れた」と呟くやいなやクリックしたように目から涙が溢れる。涙はここでは禁じられていない。彼女は片手でわたしの頭をなで、片手で背中をさすってくれる。まるで「ファイト・クラブ」のボブに抱きしめられたようだ。少し恥ずかしいが、とても快適な気分なのである。

 1分ほどして、彼女は言う。「わたしはとてもつらいの。別れた夫のことを忘れるためにここに来たのに、彼もこのパーティに来ていたの」。頭の中で叫ぶ。「これはひどい。わたしはもうこれ以上彼女に何か嘆くことなんてできない。次はわたしが彼女を慰める番だ」と。

フリータイム

 10分ほどすると、わたしのパートナーが「ありがとう」と囁き、別の誰かと抱擁するために去って行った。

 それから「フリータイム」のスタートが告げられる。なにをしてもいい時間である。するとすぐに背の低い発音の悪いジーマが困惑した様子でわたしに近寄って来て、両手を繋ごうと言ってきた。そうして30秒ほど立っていた。彼はわたしの目を見ようとしていたが、わたしの視線は「ゆっくりしたい」と言った彼の美しい髪の色に注がれていた。その彼はと言うと、イモムシになって床を這ったり、抱擁し合う人々の間を笑いながらすり抜けたりしていた。

 その1分後、わたしは別の男性に強く抱きしめられていた。息ができなくなるほどだったのだが、離してほしいとは思わなかった。そうして5分ほど立っていた。ときおり、音楽に合わせるかのように足を右に左に動かし、ダンスをしているようなふりをしていた。互いに髪を撫でる。彼は名前を告げるのを拒否したが、さっきより気分が良くなったと告げた。

 ハッとして、目を開けると、参加者たちはいくつかの小グループに分かれているのに気がついた。テーブルに座っている人、柱を抱きしめている人などもいたが、大部分はペアになり、カーペットの上で抱き合っていた。

 すると、わたしが最初にパートナーを組んだ女性の声が聞こえる。「あなたとこんな風に横になって、2人のことを話しているなんてとても変な感じね」。彼女は別れた夫と一緒にいるらしく、とても緊張しているようだ。

 すでに知り合いになったジーマがわたしの右側に来て、ゆっくりした口調で、ある大学の事務局にいるが、自分がやりたい職業で成功したとは思えないと話す。わたしたちは手を取りあって、彼の肩に顔を埋めた。

 彼は言う。「人生で何を達成したかって、わたしは全てにおいてうまくいかなかった」と。

 ヘッドフォンの音楽のボリュームを少し上げ、目を閉じて、周りの声を聞かないようにしてみる。眠くなってくるのが分かる。

 

自分からは逃げられない 

 目覚めたときには、パーティもほぼ終わりに近づいていた。時計を見ると約3時間経過していた。参加者たちはまた輪になって意見を交わし、感想を述べ合ったりしている。

 「わたしは誰とも抱擁しなかったのですが、すごくよい気分になれました。ありがとうございます」と頬にラメを塗った女性が言った。その発言の後、部屋には静寂が訪れた。大多数の人がそれぞれ自分の思いに浸っていて、誰もそれを言葉にしようとはしなかった。

 静寂を破って、1人の男性が言う。「耐えがたいほどの優しさをもらいました」。

 マリヤはわたしの最初のパートナーになった女性に意見を求めた。彼女は項垂れたが、絞り出すように声を出す。

 「普段は誰かの力になろうと、このようなパーティに参加しているのですが、自分の気持ちからは逃げられません。どうやったって痛みは消えないのです」。

 誰かが理解できないというように声を出した。彼女の元夫である。その他の参加者たちは同じように項垂れ、黙っていた。そのとき、本当に彼女を抱きしめたいと思った。パーティの中でだけではなく。

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