ロシアで、現代の認識での景観デザインの流行をもたらしたのはピョートル1世である。それまでロシアの庭といえば、ほとんどの場合、実質的な意味を持つもので(コローメンスコエ公園に今もあるような収穫を行うための庭)が、散策をする庭園というものはなかったのである。
大帝はヨーロッパから散策のための庭園というアイデアを取り入れただけでなく、それを実現する専門家を連れ帰った。大規模な英国風、フランス風の庭園は当初、サンクトペテルブルクに造られ、その後、他の都市にも広がった。では、ロシアのどこに行けばそれらの庭を見ることができるのだろうか?
ペテルブルクから40キロほどのところに、この地域でもっとも人気のある場所がある。それはガッチナの宮殿アンサンブルで、素晴らしい庭園に囲まれている。このアンサンブルは1790年代に建設された。
英国庭園はときに陰鬱な風景であるが、訪れた人々は続く並木道に何があるのかを知らない。木々はまるで自然に育っているかのようにイレギュラーに並んでいるが、もちろん実際には計算された上で植えられている。
ガッチナの英国風の庭園は、たくさんの島があるいくつかの湖、木陰のある並木道、ラビリンスで構成されている。これらすべてがうまく組み合わされ、さまざまな設備が加えられている。
たとえば、「エコー」という名前の洞窟は、中でさまざまな音が壁に跳ね返ってエコーする作りになっている。「鷲のパビリオン」は島の一つに建てられた大理石の鷲とパヴェル1世の紋章がついたロトンダである。しかしさらに神秘的な様相をしているのは、庭の真ん中に造られている八角形のプールである。
ガヴリラ・デルジャヴィンの屋敷の敷地内にあるフォンタンカ河岸通りには、18世紀末に造られたロマンティックなポーランド風の庭園がある。こうした名前が付けられているのは、近くに当時、ポーランド人が通っていたカトリック教会があるためである。
屋敷にあるポーランド風の庭園は伝統的な花壇と園芸植物のある装飾用の低木が組み合わされたもので、屋敷に田舎風の色彩を添えている。また最近は屋外の「グリーン・シアター」が造られ、夏季にはコンサートが開かれている。
英国風の庭園とは異なり、フランスの庭園は等間隔で樹木が植えられている。こうした庭園の最たる例と言えるのが、ヴェルサイユ宮殿にインスパイアされて造られたペテルゴフである。一方、モスクワには唯一のフランス風庭園がある。それは18世紀半ばに造られた屋敷クスコヴォの中に位置している。
ここには優雅で対称に設置された大理石の彫刻、オベリスク、パビリオンがあり、また池と運河を水源とする水路がある。屋敷の東側には、フランス風庭園と対照的な、英国風庭園がある。
19世紀後半は、ロシアだけでなく、世界中が東洋文化に夢中になった時代である。そこで1866年にペテルゴフでは、フィンランド湾岸に立つモンプレジール宮殿のテラスのそばに小さな中国庭園が造られた。中国の文化において、庭園は単なる庭ではなく、自然と触れ合うための方法の一つである。
ここには人工的に造られた丘や山、石や池、テラスがたくさんある。すべては創造のためである。ペテルゴフにある中国庭園の中央には滝の噴水がある洞窟「貝殻」と特徴的な山型の橋を流れる小川がある。しかしこの場所について知っている人は少ない。というのも庭園は半年もの間、放置されて、1950年代になってようやく修復されたからである。
一方モスクワの地下鉄「植物園」駅の近くには、中国国外最大級の中国庭園の一つがある。景観庭園「華民」は、5月初旬に同じ名前を持つビジネスセンターの近くにオープンした。庭園には3つのゾーンがあり、中央には池のある伝統的な四阿、森の中に木を敷いて作った散歩道のある散策ゾーン、そして事務所などの施設がある。
入り口には、中国の伝説に登場する神秘的な生き物と中国の灯籠のあるアーチがある。中央入り口の近くには中国の哲学者、孔子の銅像が立っている。ここにもいくつかの四阿とパビリオンがあり、将来的にここで茶会などのイベントが行われることになっている。
池、アーチ、橋など、すべてのものに「洗練された」、「紫の雲」、「8人の神」など、中国語で詩的な名前が付けられている。
ロシア科学アカデミー植物園内には、1980年代に、有名な日本の造園家、中島健の設計により造園された庭園がある。プロジェクトには渡辺富工務店が協力した。日本の伝統的な造園スタイルで作られた庭園は四季の移り変わりを十分に感じさせてくれるものである。敷地内には、有名な桜、ツツジ、イタヤカエデなど、主に北海道から持ち込まれたおよそ70の植物が生育している。
サンクトペテルブルクの植物園内にも日本庭園がある。2010年に、日本とロシアの建築家の設計により造られた。キュレーターを務めたのは池坊総家督の山田みどりさん。ここには茶室、ミニチュアの富士山と地元の河童、カップーシャ(小さな河童)が住む池のある石庭がある。庭園にはエクスカーションのグループしか入れない。
2023年の春にクラスノダールの人々を喜ばせる新しい散策の場所が生まれた。日本庭園は街で一番美しい「クラスノダール」公園の中にある。
これは日本国外にある日本庭園で最大規模のものである。面積は7.5㌶、そこに6700本の樹木と5900本の低木、28万の花が植えられている。散歩道の長さは3500㍍である。公園にはあわせて26の見どころがある。
中央入口の「唐門」、枯れ池、瞑想のための坐禅堂、禅の庭、釘を使わずに建てられた古民家、能楽堂、原木で作られた建物、茶道が楽しめる喫茶店、坪庭回廊などである。懸造りの御堂は強い心を象徴し、多宝塔は仏教の寺を思わせる。また庭には3本に分かれた滝がある。それぞれの滝で水の流れる速度が異なり、それがまた一つに合流する。滝の上には水辺で遊ぶ亀を模った展望台が置かれている。
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9 – フィンランド風庭園、プスコフ
ロシア西部のプスコフにはフィンランドのクオピオの姉妹都市がある。1991年に友好関係25年を記念してこの公園が造られた。フィンランド風の庭園は、プスコフの中心部のクレムリンからほど近い河岸にある。クオピオの住民たちがここを訪れ、柳を植樹し、四阿を建て、児童広場を作った。
これらの場所には、廃墟と化した16世紀の古い水車や17世紀の皮革工場、防衛用の要塞の跡地がある。
ペテルブルク中心部にある人工島は街で最もおしゃれな場所の一つである。ノーヴァヤ・ゴランジヤ(=新しいオランダ)は北の都と同い年である。「オランダ」という名前は、ピョートル1世がネヴァ川の河岸に艦隊を作り、そのためにオランダの造船工をペテルブルクに招いたことを思い起こさせる。
島には造船用の木材を保管するための倉庫があった。現在は公園でもあり、産業建築の記念物のある公共スペースとなっている。
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